それでも翌晩のショットバーは盛況でした。
どうやら3人の囚人のクイズは未だ誰も完璧な説明をするまでに解明されていないようでした。
大学生の工藤くんは学校でこのクイズを広めてしまい、おまけに数学の教授に解答を迫ったとかで、
すっかり教授の心象を悪くしてしまったとか。
新規のお客さんの目にはこの常連客たちはどう見えたのでしょうか。
なにせ皆がメモと鉛筆でなにか怪しげな記号を書きながら、死刑になるとかならないとか話し込んで
いるのです。このバーが怪しげな商売のアジトにでも見えたかもしれません。
マスターはバーテンのリョウちゃんを厨房の奥に呼び出し、儲けにならない常連をほおっておいて、
新規のお客さんだけに積極的に応対するようにと厳命したとかしないとか。
ともかく私たちはお代わりをもう一杯づつ、しかも面倒なフローズンカクテルやらフロートタイプの
カクテルなんぞを注文して、やっとマスターを占領することができたのである。
ユミちゃんなんぞは、プースカフェのレインボーを注文して、さすがにマスターも苦笑していたが。
「昨日の問題は」と、マスター。
「20世紀半ばには知られていたクイズでした。
ところが10年ほど前に、これと非常に似たクイズがアメリカで問題になったのです。
それがテレビ番組に端を発した3ドア問題でした。
「レッツ・メーク・ア・デアル」という番組では、回答者は3つのドアから1つを選ぶことができる。
ドアの1つは正解で乗用車なんぞが当たるが、他の2つのドアははずれ。
回答者が例えばAのドアを選んだ後で、司会者は残りのドアの内からはずれた方のドアを選んで
開ける。例えばBのドアがはずれであることを回答者に示すのです。」
「さて、ここからが重要なところですが、司会者は回答者に対して、もう一度選択の機会を与える
のです。この場合、回答者はAのドアをそのまま選んでも良いし(STICK)、変更して
Cのドアを選んでも(SWITCH)良いのです。
多くの回答者はこのとき、選び直してはずれることを恐れて、大抵はそのまま(STICK)しました。
1990年、IQ180の天才として有名なマリリン・サーバント女史が、この場合はAの確率より
Cの確率が大きい。つまり、選び直す(SWITCH)のが正解というコラムを発表したのです。
その後にマリリン女史に寄せられた非難の投書は膨大なものでした。
いわく、大学教授ともあろうものがこんな簡単な問題で間違えを犯すとは情けない・・・うんぬん。
ニューズ・ウイークの記事になるほど反響を呼んだこのクイズは、数学者の間ですら意見が分かれる
というありさま。
さて、改めて質問です。マリリン女史の主張通り、この場合、必ず選び直した方が有利というのは
正しいでしょうか?」